日本の矯正治療率「7.7%」が示す課題

株式会社Brace 代表取締役/歯科医師 吉住 淳

データが示す「矯正治療がまだ一般化していない」現実

厚生労働省「令和4年(2022年) 歯科疾患実態調査」によると、日本で矯正治療を受けた経験がある人は、全体でわずか 7.7% にとどまっています。
50歳未満の層に限っても、その割合は 17〜20%程度。つまり、日本では多くの人が生涯一度も矯正治療に触れずに過ごしているというのが現実です。
一方、矯正先進国であるアメリカでは、ティーンエイジャーの多くが矯正を経験しており、「歯並びを整えること」は特別な医療ではなく、当たり前の予防的ケアとして社会に根付いています。
このギャップは、「日本には矯正のニーズがない」ということではなく、“矯正治療を適切に提案し、実現できる仕組み”がまだ整っていないことの裏返しです。患者が求めていないのではなく、現場がそのニーズを拾いきれていない。
この構造的な課題を解消することが、矯正治療の“一般化”に向けた本質的な第一歩だと私たちは考えています。

私たちが捉える課題構造

1. 矯正の“診断と運用”が不透明なまま進んでいる

マウスピース型矯正の普及により、一般歯科でも矯正治療に取り組む先生が増えています。一方で、診断や治療運用のプロセスが属人的で、中身が見えないまま進行しているケースも少なくありません。
矯正治療において本当に重要なのは、「何の装置を使うか」ではなく、「どう診断し、どう運用するか」です。この判断プロセスが十分に可視化・共有されていないことが、治療の質のばらつきやトラブルにつながっていると私たちは考えています。

矯正治療では、まず「どの歯をどの方向に動かすか」を決める診断が出発点になります。しかし、骨格・軟組織・咬合といった多角的な情報を踏まえずに診断が行われると、その時点で動かせる範囲や治療のゴール設定に無理が生じることも。近年では、AIによる自動診断も普及していますが、患者ごとの構造的な特性に即した判断は、依然として人の臨床知見に依存しています。
さらに、治療が始まった後も「計画通りに歯が動かない」「アライナーが合わない」といった問題は日常的に発生します。
こうした場面で求められるのは、治療計画を的確に見直し、状況に応じて柔軟に対応する臨床判断です。アタッチメントの再調整、IPRの再検討、リファイメントのタイミングなど、どれも運用フェーズで必要とされるスキルですが、この部分が曖昧なままだと、治療の精度や一貫性はどうしても落ちてしまいます。

2. 一般歯科と矯正専門医が“線”でつながっていない

患者さんから歯並びや噛み合わせに関する相談を受けても、その場でスムーズに対応できず、次のような悩みを抱えるGPの先生は多いのではないでしょうか。

  • 専門医への紹介が心理的・物理的にハードルが高い
  • 自院でどこまで対応できるのか判断に迷う
  • 治療後のフォロー体制を構築するには時間も人手もかかる

この背景には、GPと矯正専門医の間に“連携の線”がない(または弱い)という構造的な問題があります。診断、設計、経過観察、フォローアップといった各フェーズが分断されており、現場での判断や対応が属人的になりがちです。

本来あるべき構造

3.矯正を“ビジネス”として扱うことの構造的リスク

矯正市場の拡大に伴い、医療以外の分野からも参入が進んでいます。 広告主導の集客モデル、D2C型の矯正サービス、パッケージ化された治療設計──いずれも「矯正をビジネスとして成立させる」ことを目的に設計されています。
しかし、矯正治療はれっきとした医療行為であり、診断の適否、歯牙移動の可否、リスク管理といったすべての意思決定は、本来、歯科医師の専門的判断に基づいて行われるべきものです。
たとえば、インビザライン® システムの進化の歴史を振り返っても、その開発はMBA出身の創業者が単独で進めたわけではありません。矯正専門医や大学教授といった臨床の専門家と協働しながら、「医療知識 × テクノロジー」の共創によって成長してきた背景があります。
このように、技術は医療の論理と倫理の上に構築されなければならないのです。

SMILE ACCESSが提供する価値

SMILE ACCESSは、「診断」「運用」という矯正治療の中核プロセスを、誰もが安定して再現できる形で提供するための支援サービスです。

SMILE ACCESSのシステム

日本矯正歯科学会認定医を含む専門チームが、初期診断から治療設計、治療中のモニタリング、経過に応じた再設計、動的治療の完了までを一貫してサポート。GP(一般歯科医)の先生方が、個人の経験や習熟度に左右されず、一定のクオリティで矯正治療に取り組める環境を整えます。
私たちが提供するのは単なるアライナー設計や技術提供ではありません。初期診断、治療方針の立案、臨床経過に応じた調整・再設計、動的治療の完了に至るまで、医療者としての責任を共有しながら伴走する“医療的設計支援”です。

開発と運用の中心には、矯正専門医である代表・吉住をはじめとする臨床チームがいます。私たちは、矯正を単なる商品ではなく、医療として責任を持って提供できる仕組みをつくることを目指しています。技術と医療のバランスを保ちながら治療の質を引き上げ、誰でも再現できる高品質な矯正治療を現場に届ける──それが、SMILE ACCESSの目指すサービスです。

データが示すもう一つの変化──拡大する“大人の矯正ニーズ”

「矯正治療は子どもが受けるもの」 かつてはそれが常識でした。しかし今、現場の実感として、明らかに流れが変わってきています。

SMILE ACCESS加盟医院を含む多くの歯科クリニックでは、30代はもちろん、50代・60代の患者からの矯正相談が着実に増加。大人の矯正ニーズは、もはや例外ではなく、新しいスタンダードになりつつあります。
この変化の背景には、次のような要因があります。

  • 予防意識や審美意識の高まり
  • マウスピース矯正の登場による、治療への抵抗感の低下
  • 健康寿命・QOL(生活の質)への関心の上昇

    こうした意識の変化は、現場の声にも表れています。

「昔は30歳を超えて矯正する人なんて、ほとんどいませんでした。でも今は50代・60代の方も普通に来られます。20代だと“若いな”と感じるくらい。それだけ意識が変わってきているんです。」
──有本博英先生(イースマイル国際矯正歯科)

有本博英先生

いまや矯正治療は、見た目の改善だけでなく、一生使う歯を守るためのライフステージ別の医療として、多くの大人たちに選ばれています。

矯正が“特別”から“当たり前”になる社会へ

日本における矯正治療の経験率はいまだ7.7%にとどまっていますが、成人矯正を中心に「歯並びを整えたい」というニーズは着実に高まり、矯正は今や、これからの一般歯科医療において欠かせない領域になりつつあります。

この流れの中で、鍵を握るのが「矯正を理解し、適切に提供できるGP(一般歯科医)」と、「臨床支援を行う矯正専門医」がつながる新しい医療モデルです。SMILE ACCESSは、まさにその“橋渡し”を担う仕組みとして機能します。
矯正治療は、もはや審美目的にとどまりません。咬合、呼吸、姿勢、発音など、全身の健康と密接に関わる医療領域として位置づけられています。世界ではすでに、矯正は包括的な口腔医療の一部として当たり前に提供されており、日本でもその変化は加速し始めています。

専門医の知見と地域医療が交わり、矯正が“特別な選択肢”ではなく“当たり前の選択肢”として定着していく──SMILE ACCESSは、その未来を臨床の現場から支えていきます。

出典
有本博英 × 吉住 淳 対談「矯正歯科の未来と挑戦」(Brace公式YouTube)
厚生労働省「令和4年 歯科疾患実態調査 結果の概要」